★☆「子ども学」とわたし☆★
「子ども学」という発想を私が持ったのは古い。小嶋謙四郎先生、宮沢康人先生、原ひろ子先生と一緒に『新しい子ども学』、Ⅰ.「育つ」、Ⅱ.「育てる」、Ⅲ.「子どもとは」の三部立てで、1979年海鳴社から出版したことは、ある意味で公的な第一歩と言えよう。
“新しい”とつけたのは、すでに「子ども学」という考えがあったという意見があったからである。もっとも、イギリスの小児科医Jolly教授の“Children’s Growth and Development”を、「ジョリー博士の子ども学」として、1980年に三笠書房から私が出版していたこともあったので、「子ども学」という発想は1970年後半には、私の脳の中ではすでに動き始めていたと言えよう。
考えてみれば東大小児科の教授になって1年後の1971年、文部省の命により、世界の医学教育を視察した時、世界各地でいろいろな出来事を見て、時代が動いていると感じ、パラダイムの転換が必要であると実感したことが、そもそものはじまりであった。それこそ、自他分離から共生・共創へ、縦割りから横割りにと、要素還元論から総合統合論への転換である。
1992年ノルウェーのベルゲンで、政府主催の“Children at Risk”という国際会議が開かれ、“Child Ecology”というタイトルで、私の考えを発表する機会があった。その時、“Norwegian Center for Child Research”という統合的な研究をする国立の子ども問題の研究所があった。それは、「国立子ども学研究所」と呼ぶのにふさわしいものであった。
このベルゲンの国際会議でのやり取りによって、私の心の中の「子ども学」はより確かなものになり、1996年に国立小児病院を退官した後、「子ども学」という考えを普及し、実践もしたいと考え始めた。そして、「子ども学」を英語で“Child Science”と呼ぶことにした。いわゆる“Human Science”の子ども版とも位置付けたのである。さらに、当時12年に及び勤めた国際小児科学会(IPA)を辞めて間もなかったので、国連大学にそのような研究所をつくりたいと考え、青山に出来たばかりの建物で、学長にお会いしてお願いもしたが、基金がなければ駄目だと言うことになり、消えてしまった。
国立小児病院がナショナルセンター化(現在:国立成育医療センター)される前だったので、その準備のために退官が延び、「子ども学」の実践をはじめたのは1996年になってのことであった。甲南女子大学で、「子ども学」の講義をはじめ、国際子ども学センターをつくり、現在は、その名誉所長の称号をいただいている。
もっとも、1993年くらいから季刊「子ども学」が福武書店から出版され、1996年の退官後には、皆さんがご覧になっているチャイルド・リサーチ・ネットというインターネット上のサイバー子ども学研究所を設立させていただいた。子どもに関係している世界の研究者・実践者をインターネットでつなごうという考えに対して、当時の福武書店(現ベネッセコーポレーション)の支援を受けて作ったものである。現在、日本語版ばかりでなく、英語版、中国版がオープンし、それぞれのアクセス数は月に70万、10万、1万ほどである。
チャイルド・リサーチ・ネットでは2002年に「子ども学勉強会」を発足させたが、そのような中で「日本子ども学会」を設立する決意を固めた。2005年は、第2回の学術集会「子ども学会議」を「多文化社会と子ども達」というテーマで開催した。
「子ども学」は、学際的・環学的・統合的に子どもを捉える人間科学の体系のひとつで文理融合科学である。子ども観・子どもの権利などの論理的・哲学的な捉え方の研究はもちろんのこと、子どもに関わるハードばかりでなくソフトを、子どものことを考えてデザインをする“Child caring design”の研究がある。例えば、ハードとして、校舎・都市・教材など、ソフトとして、教育カリキュラム・少子化対策・少年法などがあげられよう。さらに、第3の柱として、子ども問題の要因分析、問題解決の確立などの研究が大きなテーマになろう。
「子ども学」は、人間に関わる科学の流れの中でどう育ったものであることはご理解いただけたと思う。将来いつか親になる人ならば誰でも、特に女性は一般の高等教育の教養課程として勉強していただきたいし、さらに育児・保育・教育に関する専門職を目指す学生にとっても重要な基礎教科と考えられる。子どもに関係するハードをデザインする工学系の人も、是非「子ども学」を学んでいただきたい。六本木の回転ドアの出来事も、製作者に「子ども学」の基礎知識があったならば予防出来たと思う。
私の調べた範囲内ではあるが、私が直接関係した、神戸の甲南女子大学に国際子ども学センターが設立された1992年以降、2005年4月までに、「子ども学」という名称を付けた学科などが12件に及び、来年度春に開設するところもあるという。私が考えている以上に「子ども学」という考えが普及したことは大変喜ばしい。時代の流れとでも言えよう。皆さんと共に、子ども達の幸せの基盤作りをしましょう。
<出典元URL>
http://www.crn.or.jp/OFFICE/MESSAGE/BACKNO.HTM
*今月の所長メッセージ(2005年9月9日掲載より)
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