★☆イギリスの“Child Studies”とノルウェイの“Child Research” 「子ども学」“Child Science” こそがその理念基盤☆★
この20年ほどイギリスの小児科学会の名誉会員として、学会関係の活動に関する資料を毎月戴いている。この数年、“Child Studies”という言葉が目に付くようになった。イギリスのKing’s Collegeでは、“Child Studies”で修士号が与えられると言う。このKing’s CollegeのChild Studies Programでは、幅広い多様な小児期の問題“childhood issues”を、現在の政策や社会対応などの中で、医学、看護・助産学、法学、社会科学、心理学、公共政策科学などの学術体系の立場で理解し、特別な問題についてはそれぞれの異なった学問や教育体系の中で育てられた専門職が持っている将来の見通しや考え方をお互いに理解し共有することを目的としている。これこそ私達の考えている「子ども学」“Child Science”が基盤理念になっていると思うのである。
1992年にノルウェイのベルゲンで開かれた“children at risk”「危機にある子ども達」というテーマの国際会議に招かれて、社会文化も含めた“Child Ecology”「子ども生態学」というタイトルで特別講演を行った。その際にNorwegian Center of Child Researchという存在を知った。“Research”は研究・調査の意であるが、その基盤理念が「子ども学」であると思った。
イギリスの“Child Studies”も、ノルウェイの“Child Research”も、その基盤には、私の考える“Child Science”が共通理念としてあると思う。日本語にする時は、全て「子ども学」にするようにしている。5年程前まで、「子ども学」を講義していた神戸の甲南女子大学に、「国際子ども学センター」をつくったが、英名は“International Center for Child Studies”にした。中国語での「子ども学」の呼び名はいろいろ考えた結果、「児童科学」に落ち着いた。もっと「くだけた」ものにしたかったが、それぞれの文化によって語感が異なるので、仕方がなかったように思う。「国際乳児行動発達学会」は、今年京都で「国際赤ちゃん学会」として開催される。「赤ちゃん学」、「子ども学」という言葉は特定の学問の匂いもなく、皆が平等に参加出来ると思うのである。
“Child Science”、“Child Research”、そして “Child Studies”の発想は、CRNをご覧になられている方々ならすぐに理解されよう。現在の子ども問題は、従来の学問体系では解決出来ないと考え、関係する学問を学際的あるいは環学的に統合・包括しようというのである。関係する学問を医療関係から考えてみるならば、小児科学、小児保健学からはじまって、その他の関連する学問では、発達心理学、小児行動学、小児社会学などといろいろ出てくる。子どもに関係する学問(科学)なら、自然科学であろうと人文科学であろうと、皆一緒に合わせて考えればよいのである。私達が初めて書いた「子ども学」の本も、心理学・文化人類学・教育学・小児保健学・小児科学を柱にした。
「子ども学」は集学的、学際的、環学的な文理融合科学と言える。「子ども学」という発想を、なぜ私が持ったかというと、1971年文部省の命により、世界の医学教育の視察をしたことに始まる。そこで学んだことは、従来の基礎医学が、解剖学・生理学・生化学などの専門分科学術体系ではなく、それを人間という視点、患者あるいは病気という視点でまとめられて、「人間生物学」「人間科学」として教えられていることであった。要素還元主義を取り込み乗越えて、統合的・包括的に教えられるのである。それを見て、正に目が開かれる思いであった。「子ども学」は、子どもの「人間科学」と言える。
こういった新しい科学の流れを、その後もいろいろな機会に学び、子ども問題の解決にも、それが必要と考えた。小児医療の現場を見れば、感染症や栄養障害などの生物学的な病気(bio-morbidities)より、肥満や不登校など、多様な要因が関係する心身の複合病態による病気(co- morbidities)の方が、現代では深刻なのである。小児科学も、その問題解決に必要なものが、“Child Studies”であり“Child Research”であり、その基盤理念として“Child Science”であると思うのである。
“Child Science”が、われわれによって取り上げられ、「日本子ども学会」“Japanese Society of Child Science”が数年前より走り始めていることは、極めて意義高いものと考え、今後の展開に期待していきたい。
<出典元URL>
http://www.crn.or.jp/OFFICE/MESSAGE/BACKNO.HTM
*今月の所長メッセージ(2006年4月14日掲載より)
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